長崎家庭裁判所 昭和61年(家)928号 審判 1986年7月17日
申立人 肴屋敏夫 外1名
主文
申立人らの氏「肴屋」を「飯田」と変更することを許可する。
理由
1 申立の趣旨
主文同旨の許可を求める。
2 申立の実情
(1) 申立人らの氏「肴屋」は、魚を売ることを連想させ、子供(長男)が他の子供から魚屋、肉屋などとひやかされ、いじめられることもあり、子供(長男)もそのことで精神的に打撃を受けている。
(2) 申立人らには、同籍者として、長男良一(昭和50年12月29日生)のほか、次男浩二(昭和55年6月25日生)がおり、子供らも氏を変更することに同意している。
(3) よつて、申立の趣旨のとおりの許可を求める。
3 当裁判所の判断
一件記録に申立人ら本人の各審問の結果を総合すると、申立の実情記載の各事実及び次の各事実が認められる。
即ち、
(1) 申立人敏夫は、現在、○○中央市場○○出張所に勤めているが、魚を扱う仕事のため、氏が「肴屋」というのだと言つても、大抵の人は信用してくれないで困つている。
(2) 「肴屋」という氏のために、子供(長男)が学校や塾などで仲間からからかわれ、泣いて帰つてくることもある。
(3) 長男は今、小学生で、スイミングクラブや塾などに行つた時、マイク等で名前を呼ばれたりすると、笑いの対象になり、氏が珍奇なために非常にいやな思いをし、苦痛を感じて毎日を送つている状態である。
(4) 申立人ら夫婦は、結婚して11年になるが、今までは、申立人らだけが、上記のような具合の悪さと不便を感じながらも、何とか堪えて来たが、子供らが氏の為にいじめられて、毎日を送るということになると、今後の生活が思いやられて、堪えられない。
(5) 申立人美代子は、結婚した時、同敏夫と相談して、同女の実家の氏「飯田」を名乗ることも考えたが、夫の母親に悪いと思つてやめ、「肴屋」を称してきたが、しかし、最近では子供らが可哀相だということで、夫の母親も、申立人らの氏を「飯田」に変えることに理解を示している。
(6) そこで、申立人美代子の結婚前の氏である「飯田」の氏に変えたいと、申立人らは希望している。
以上の事実が認められる。
以上認定の各事実によると、本件申立は、申立人らの主観的感情だけでなく、客観的に見ても「肴屋」という氏を呼称することには、一般的に社会生活上、申立人らの主張するような不利益が考えられなくもないのみならず、昨今の風潮として、小学生や中学生の間でいじめがひろがり、子供の心情を著しく傷つけていることは当裁判所にも顕著なことであり、また、申立人らがあらたに称したいという氏「飯田」は、申立人美代子の婚姻前の氏であるから、氏をなるべく変動させないようにしようとする戸籍法所定の趣旨から考えて、変更する氏としては最も妥当なものということができる。
以上の諸事情を総合して考えると、本件申立は、戸籍法107条1項にいう「やむを得ない事由によつて氏を変更しようとするとき」に該るものとして、認定するのが相当である。
よつて、主文のとおり審判する。
(家事審判官 弓削孟)